調整可能な広帯域 (X-) チャンネルを備えた「X-Pulse」は、広い周波数範囲で多くのNMR活性核を観測できることが証明されています。これまでのところ、周期表の紺色で示された原子核(図 1 右)は、卓上型システムの利便性と使いやすさを備えた「X-Pulse」で測定されています。臭素に関しては、同位体(79Br と81Br)がいずれも四極子(S = 3/2)であり、ブロードなシグナルが生成され、高分解能分光計ではほとんど検出できないことがあるため、研究では主に、固体NMRが使用されます。しかし、いずれの核も天然存在比が50%前後と非常に高く、共鳴周波数も13C とよく似ています(13C の周波数@1.4 T = 15.01 MHz)。これら臭素同位体の特性を表 1 に示します。この情報をもとに、3 mol/l の KBr重水溶液 (D2O) を用いて、60 MHzのX-PulseシステムでBr NMRを実施することにしました。いずれの同位体も化学シフト (δ) 8.57 ppmで、79Br および 81Br に対してそれぞれ線幅 ( ν ½ ) 539 Hz、395 Hzとなります。図 1 に示すように、81Br は79Br よりもわずかに線幅が狭く、溶液NMRにおいて興味深い核種となり得ます。したがって、79Br/81Br (周期表のオレンジ色)を、「X-Pulse」で観測可能であることが実証された核種のリストに加えることができます。
図 1. 「X-Pulse」で測定したD2O に溶解したKBrの1次元臭素NMR。(スキャン数:512、総実験時間:20分(左)。「X-Pulse」で観測された角は紺色で表示されます(右)。
同位体 |
核スピン |
天然存在比 (%) |
ラーモア周波数 @ 1.4 T (MHz) |
¹³C との相対感度 |
⁷⁹Br |
3/2 |
50.69 |
14.99 |
237 |
⁸¹Br |
3/2 |
49.31 |
16.16 |
288 |
表 1. NMR 活性核 79Br および 81Br の特性
次に、反転回復法 (InvRec, Inversion Recovery) およびスピンエコー (CPMG) パルス シーケンスを用いて、それぞれの臭素同位体のスピン–格子(または縦) 緩和時間 (T1) およびスピン–スピン(または横)緩和時間 (T2) を取得しました。表 2 にまとめたように、それぞれの核の緩和時間が非常に短いことが明らかになりました。T1 を計算するために、回復時間パラメータを1 – 640 msの範囲で変化させながら一連のInvRec測定を行い、信号の積算領域を図 2 に示す指数方程式に当てはめました。T1 が最適化されると、「X-Pulse」で臭素の定量測定を安全に行えるようになります。T2 緩和時間もまた、エコー時間(τ)を一定に保ちながらエコー数を変化させる一連のCPMG測定を収集することによって得られました。結果として得られた信号の減衰を図 3 に示す指数方程式に当てはめ、T2 を求めました。
図 2. 3 mol/l KBr 重水溶液 (D2O) におけるT1 測定のための反転回復法測定
図 3. 3 mol/l KBr重水溶液 (D2O) におけるT2 測定のための CPMG 測定。各エコーの持続時間は 2×τ。
同位体 |
T₁(ms) |
T₂(ms) |
⁷⁹Br |
0.3 |
0.6 |
⁸¹Br |
0.8 |
0.7 |
表 2. 79Br および 81Br の T1 および T2
まとめ
このブログでは、広帯域卓上型NMR分光計「X-Pulse」により臭素 (Br) 核の測定が非常に手軽に行えることを実証しました。異なる核種間の切り替えは非常に迅速であり、必要な操作は、ソフトウェアで目的の核種を選択して、その後プローブを適切な周波数に最適化するだけです。「X-Pulse」に搭載されているすべての機能を組み合わせることで、学術分野や産業分野において、卓上型の機能性を高める大きな可能性を見出すことができます。